言ひなさいと、すゝめますから、吉ちやんも、では行きませうといつて、その男に案内さして市長のうちへ行きました。
市長のうちは大変立派な、大きなお城でした。けれども不思議なことには、何だかごた/\してゐて、吉ちやんをうつちやらかしたまゝ誰も出て来ません。
「大黒様。」
と、吉ちやんはもう何でも大黒様にきゝさへすれば分ると思つてゐます。
「どうしたのでせうね、この騒ぎは。それに、お客様の僕《ぼく》を、誰《だれ》もかまつてくれないぢやありませんか。」
「うん、これか。」
と、大黒様は申しました。
「これはいつもあることなんだ、世界がひつくり返つたときには。――いまに分るよ。」
言つてゐるうちに、立派な服に、左の腕に黒い布をまいた人が出て来ました。その顔は蒼醒《あをざ》めてをりました。
「私《わたし》が市長でございます。」
と、その人は丁寧にお辞儀をして申しました。
「あなたのお蔭《かげ》で、私《わたし》共の世界が元どほりに、真《まつ》すぐになりましたことは、誠に御礼の申さうやうもないことでございます。で、ほんのお礼のしるしばかりに、宴会を開きましておいでを願つたのでございますが、とんでもな
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