、いつ来たのだらうと思ひました。けれども全然見知らぬ人でもないやうでした。
「あゝさう/\。」
と、吉ちやんはその時不意に思ひつきました。
「あなたは去年のクリスマスに、青年会館に出てゐらした、サンタ・クロースですね。」
 おぢいさんは、につこり笑ひました。
「似てゐるかも知れないが、ちがふよ。わたしはねえ、オレ・リユク・ウイといふ名さ。」
「へえ、やはり西洋人ですね。」
「いや、西洋人でもなければ、支那人《しなじん》でも日本人でもない。夢の国にゐるものだよ。」
「夢の国? そんな国がありますか。」
「あるとも/\、わしの名はそれに因《ちな》んだものだ。オレ・リユク・ウイといふのは、日本の言葉で言へば、眼《め》をつぶれ、といふことだよ。お前もちよつと、わしの国へ行つてみないか。」
「えゝ有難う、でもこんなに雪が降つちや、外は路《みち》が悪いでせう。」
「いゝえ、外へ出なくてもいゝのだよ、只《ただ》そこへ坐《すわ》つたまゝ、この傘の下に入れば、直《す》ぐ行かれるんだ、いゝかね、ほうれ。」
 オレ・リユク・ウイのおぢいさんは、さう言つて、手にもつた蝙蝠傘をひろげて、吉ちやんの頭の上にさしか
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