の鳩はお豆なんか喰《た》べやしない。」
「ぢや、何を喰べるんだい。」
「さあ、何をたべるだらうね。」
「ぢや、お米をたべるの。」
「いゝえ。」
「ぢや、お魚。」
「いゝえ。」
「ぢや、牛肉。」
「そんなものなんか喰べるものか。」
「ぢや、何をたべるの。」
「いつてきかさうか。」
「うん。」
「あれはお年をたべるの。ちつとづつ、ちつとづつ、おまいのお年も喰《く》ひへらしてゐるの。」
一郎は自分のものは何でもひとにやることがきらひなたちでしたから、お時計の鳩が自分の年を喰べるときくと、たいへんいやな気がして、いきなりステツキで時計の面《つら》をたゝきつけました。ちやうどそのとき十一時で時計の上の戸があくと、いつものとほり鳩が出て、ポウポウと鳴き始めました。
「ばか、僕のお年なんかたべるんぢやない、ばか、ばか。」
一郎はさういひながら、今度はステツキで二つ三つ、つゞけて鳩を叩《たた》きつけました。すると、鳩はなくのをやめて、ポタリと床の上に落ちました。それといつしよに今までチクタクと音させて、動いてゐた時計もその振子をとめてだまつてしまひました。鳩は死に、お時計はこはれたのでした。でも一
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