ばいゝのだ。しかし、鳩は、ちやんと時間が来なけりや、顔を出さないから、おまい、そこの椅子《いす》におとなしく待つておいで。もう十五分ばかりで十一時になるから。こんどはよつぽど長くないてゐるよ。」
 一郎もさういはれると、待つ気になつて、ひとまづ踏台からおりて椅子《いす》の上に腰をかけました。けれども、ものゝ一分とはぢつとしてゐません。
「まだかい。」
「まだ……三十秒きりたゝないぢやないか。」
「三十秒てどれだけ。」
「おまいは小さいから、まだよく時間を知らないんだ。おれが教へてやらう。おれの顔を見ておれよ。」
 時計は、その眉毛のやうについてゐた針を平がなのくの字の反対の形に、ぴよいと曲げました。
「分つたか。これだよ。」
「分らない。」
「馬鹿《ばか》だな……それで鳩が出たらどうするんだ、おまい。」
「お豆をたべさしてやるんだ。」
「いけない。おまいはどうして、さういたづらなんだらう。」
「でも、ばあやが、鳩ポツポはお豆をたべるんだつていつたよ。だから、ぼく、ポケツトにいり豆をたくさん入れて来たんだ。」
 一郎は自分のポケツトをたゝいてみせました。
「それはいけないよ、おれんところ
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