くだいてゐる。又別なものはえたいの知れない水薬を、この瓶から、あの瓶へとおづ/\した手つきではかつて、一てき/\とうつしてゐます。みんな、あをざめた顔をして疲れきつたやうに見えます。誰《たれ》一人として仕事をしながら笑つたりしやべつたりするものはありません。沈みきつて子供らしくもないのです。
そのとき、ふと戸口が開きました。はいつて来たものがあります。それはほかでもない、大女でした。けれども、虹猫は二度びつくりしました。なぜかつて言へば、大女は、せいはすばらしく高かつたに相違ありません。けれどもその顔は決して恐くはなくつて、かへつて美しく、愛嬌《あいけう》があつて、黄金色《こがねいろ》の髪をしてゐました。
大女がそこにあらはれるが早いか、子供たちはみんな走つてそのそばへ行くのが、ちやうどお母さんでも来たやうに、嬉《うれ》しさうです。
虹猫はもうぐづ/\してはをりません。すぐにマンドリンをとつて、弾き始めました。けれども、魔法つかひに聞かれると悪いと思つて、そんなに音高くは鳴らしません。しかし幸にも風が順に吹いてゐました、それに魔法つかひは、その魔法の仕度に一生けんめいだつたので、そんな音なんか聞えはしませんでした。
けれども、大女はあたりまへの人よりも大きな耳をもつてゐて、よく聞えるものですから、すぐその音を聞きつけました。そして窓から顔を出しました。塔の下には虹猫がマンドリンをかゝへて腰かけてゐますから、何をしてゐるのかときゝました。
「僕《ぼく》は虹猫だよ。どうぞ僕をたすけて、そこに上らしてくれたまへ。」と、虹猫は言ひました。
大女はリボンの腰帯をといて、その一ばん下の端にハンケチを入れて置いた袋をゆはへつけて下ろしてやりました。大女の持ちものですから、その袋は虹猫がはいつて、そのうへに又宝の袋やらマンドリンやらを入れても十分あまりがあるほど大きかつたのです。
大女は虹猫を窓のふちまで引き上げて、中に入れて、何をしてゐるのか、どうしたのかときゝました。虹猫をたゞものでないと見てとつたからです。
虹猫が、ユタカの国で聞いたことを話しますと、大女も自分の身の上話を致しました。
悪い魔法つかひが来て、大女がまだほんの赤ん坊であつたとき、盗み出して、このお城につれて来て中に閉ぢこめ、魔法にかけて、ありとあらゆる悪いことをしてゐたのでした。
「土地の人
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