、土地の人たちには、何にも言ひませんでした。言つたからとて、どうすることもできるわけではなし、たゞ心配をするきりのことですから。 
 だから、うまい計略を考へるため、少し散歩してくるといつただけで出かけました。

 虹猫は身がるに岩の出たけんそ[#「けんそ」に傍点]な道を上《あが》つたり下りたりして、とう/\お城の壁のま下まで来ました。
 お城にはすばらしく大きな二つの石の塔が一方の端と、も一方の端とに、一つづゝ立つてゐて、その高い煙突からは、毒々しい、みどりやら、紫やら、黒やらの煙がもく/\とあがつてゐました。
「なるほど、あれは大女が恐ろしい魔法の薬をこしらへてゐるんだな。」と、虹猫はひとりごとを言ひました。
 そこで塔の下のところに腰かけて、袋から千里眼のお水のはいつた小さな瓶《びん》を出して、それを目にぬつて、お城の中を見通さうとしました。すると、ふしぎなことには、お城の中にゐるのは大女ではなくつて、長いごましほ鬚《ひげ》の生えた、きたならしい魔法つかひの爺《ぢい》さんであることが分りました。頭には、ばかに高い帽子をかぶり、大きな炉《ゐろり》を前に、広い部屋の中に住まつてゐました。
 さま/″\変な、恐ろしい形をしたものが壁にかゝつてゐたり、戸棚《とだな》の中にしまつてあつたりして、床の上にも、テイブルの上にも魔術の本が山のやうにつみ重ねてありました。
 魔法つかひは腰に大きな鍵《かぎ》のたばをぶら下げて、火にかけたまつ黒な鍋《なべ》の中に、何やらグチヤ/\煮え立つてゐるものを、しきりにかき廻《まは》してゐました。虹猫がさつき煙突からのぼるのを見た煙はそこから来るのでした。
 炉《ゐろり》の火の光りで、鍵につけた札に書いてある字が読めました。
 金の箱、銀の箱、宝石の箱、大女の室《へや》、牢屋《らうや》、大女の庭。
 そんな札が鍵についてゐましたから、虹猫はよつぽど事情が分つて来たやうに思ひましたが、もつとよく見きはめてやらうと思つたので小さな袋を取上げて、こつそりお城の、別な端に行つて、そこの塔の下に腰をおろしました。そして又れいの千里眼のお水を目にぬりつけました。
 今度その目にうつつたのは、子供たちの一ぱい集つてゐる大きな室《へや》でした。
 子供たちはいそがしさうに仕事をしてゐました。或者は妙な草をより分けてゐる。或者は重い石で、何だか変なものをつき
前へ 次へ
全6ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング