の倉だの小屋だのを大女が家《や》さがしして、牛や馬をひき出して行く音が聞えるのでした。
 さうかと思ふと、闇《やみ》のうちに大きな声がして、
「こら、きさまたちの宝を出せ、出さないと子供をとつて行くぞ。」といふ叫びが聞えるのです。土地の人たちは、仕方なしに窓を開けて、こは/″\、その宝物を外に投げ出すのです。
 又ときには、いつか知ら、立札が出て、これ/\の品物をお城の門のところへ持つて来て置かないと大女が降りて来て、みんなをひどい目にあはすぞと書いてあることもあります。土地の人たちは、その立札どほり品物を持つて行つて、お城の門へ置いて来ますが、そのたんびに、そこで見て来たいろんな恐ろしい話を伝へます。

 或人《あるひと》は、大女の靴《くつ》を女中が磨《みが》いてゐるのを見たと言ひます。その靴は、ちやうど乾草《ほしくさ》をつんだ大きな荷車ほどあつたといふ話です。
 又|他《ほか》の者は、大女が洗濯物《せんたくもの》を繩に干してゐるのを見て、腰をぬかさんばかりに驚いて、走つて自分の家に帰つたが、一週間ばかりは起きることができなかつたとも言ひます。
 けれども、一ばん悪いことは家《うち》のそばを少し遠くはなれた子供が、ふつと姿を隠して、それつきり帰つて来ないことでした。
 取り残された子供の話によると、とほうもなく大きなマントを頭からかぶつた、えたいの知れないものが、どこからかヒヨツクリ飛び出して、自分たちの仲間の一人を引つさらつて森の中へ走つてにげたといふのでした。
 だから、親たちは、ちよつとの間でもその子供から目をはなすことができなくなつていつ大女が出てくるかと、そればかり心配してゐるので、仕合せといふものが、国ぢうから、だん/\消えてなくなりました。

 虹猫の智恵は、もうこの国にまでも聞えてゐましたから、土地の人たちはその来たのをみると大よろこびで、どうかいゝ智恵を貸して、助けて下さいと頼みました。虹猫はこれはなか/\面倒な仕事だと思ひましたけれど土地の人たちがあんまり気の毒なものですから出来るだけの事は致しませうと約束しました。
 そこに着いてから二日目の夕方、虹猫は小さな袋をもつて、こつそり大女のゐるお城をさして出かけました。袋の中には雷から貰《もら》つた稲妻と、木精《こだま》の国で手に入れた、とほし見の出来る千里眼のお水とがはいつてゐました。
 虹猫は
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