は何でもかんでも、みんな私《わたし》がしたと思つてゐます。それは私も知つてゐます。」と、大女が言ひました。「魔法つかひの爺さんは古い洗濯《せんたく》だらひと六粒のお豆とを、火の竜にひかせた車にすることができるのです。それにのつて出かけるときには大きなマントを着て、高い帽子をかぶりますから、だれでも私だと思ひますわ。そしてね、自分のするいろんな悪いことを子供たちに手伝はせて、私みたいに、いつもとりこ[#「とりこ」に傍点]にして置きます。おまけに私たちには、ろくすつぽ御飯も喰《た》べさせないから、早く助けて貰はなけりや、私たち死んぢまひますわ。」
大女は目からボロ/\と涙を流しました。それは一粒で一つの池ができるやうな大粒の涙でした。
「泣いちやいけません。」と、虹猫は言ひました。「いまにみんなよくなります。僕《ぼく》の法術は爺さんの魔法よりも強いのですからね。一度あいつに出あつたらすぐあいつを片づけてしまひます。僕をあいつのところへつれて行つてくれませんか。」
けれども大女は恐がつて、とてもそんなことをする勇気がないのでした。
「そればかりでなく、なか/\あなたを家《うち》の中に入れやしませんよ。大へん疑ひ深いんですから。」と、大女は言ひました。
「それはどうにかなりませうよ。」
虹猫はそつとマンドリンをかき鳴らしながら考へてゐると、突然、大女は気がつきました。
「爺さんは、音楽が好きなんですよ。仕事をするのに大へん助けになるからですつて。だからもし、あなたが外を流してあるく旅音楽師の真似《まね》をなすつたら……」
虹猫はよろこんで、とび上りました。
「そこだ。それぢや、あなた孔雀《くじやく》の羽を一本僕にかしてくれませんか。」
大女はすぐ孔雀の羽をもつて来ました。
「どうもありがたう。これであなたは一時間たつたら、自由なからだになりませう。まづそれまで、しばらくさやうなら。」と、言つたかと思ふと、虹猫はひらりと身がるに窓からとび下りました。
それから、すつかり外套《ぐわいたう》を着こみ、帽子を目深にかぶり、孔雀の羽を帽子の前の方にさしました。
「どうです。これですつかり旅の音楽師でせう。」と言つて、虹猫は大胆に魔法つかひのゐる塔へ行つて呼鈴《よびりん》をひきました。
魔法つかひは自分で戸口に迎ひに出て来ました。けれども、ほんの僅《わづ》かばかりしか戸を
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