大蛸は海豚が案外やす/\と押へられはしたものの、うかつにそばへは寄りつけないから、その大きな目をむいてじつと隙《すき》を狙《ねら》つてゐる、すると又、海豚の方では、不意を打たれて、幾分か自由を失つてはゐるものゝ、それぐらゐで閉口するやうな弱虫でないから、おとなしいやうなふりをして、実はじつと、蛸の様子をうかゞつてゐるのでした。
と、たちまち、どんな隙を見つけ出したか、大蛸はその尖《とが》つた口を、まるで電光のやうな速さで、海豚の胸の真つ只中《ただなか》に、ぐさりと一突き!
「あツやられた!」
今太郎君は自分がやられたものゝやうに、思はず大きな声を出しました。
しかし、海豚はそれを待つてゐたのです。とつさに身をかはしたが早いかあべこべに敵の頭の下を狙つて、ぱくりと、喰《く》ひつきました。
蛸やいか[#「いか」に傍点]は、手なんか二本や三本切つたところでびくともしませんが、その目のあるところは、人間で言へば首に当る大事な箇所ですから、こゝをやられたら、どんな奴《やつ》でもかなひません。海豚は自然に、それを知つてゐるのです。
急所をやられて、さすがの怪物の大蛸も、とう/\参つてしま
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