せませんから、一つ貴下《あなた》が天に御昇りになれる法をお教へ致します。」
天《あめ》の羽衣もなく、又鶴の背にものらずに天に昇る法といふのは斯《か》うでした。
昔天人が降つて遊んだ松原のあたりに、月のよい夜時々天から大きな釣瓶《つるべ》が繩《なは》をつけて下ろされる、それは天人が風呂をたてる水を汲むのでした。
元から天人|達《たち》は自分で降りて来て美しい景色を眺《なが》めながら、うしほを浴びるのでしたが、伯良《はくりやう》が羽衣を隠してから後危ないから、こんな工合にしてゐるのでした。で、子良はその釣瓶《つるべ》の水をまかして、自分が代りに中に入つて行けばよいといふのでした。
六
子良《しりやう》は今度こそ天にのぼつて、蜃気楼《しんきろう》の御殿を見たり、お母さんに会つたりすることが出来ると、大変|悦《よろこ》んで、或《あ》る月のよく光つた晩、こつそり鶴《つる》が教へた処《ところ》に行き、松の蔭《かげ》に隠れて天から釣瓶《つるべ》の下りてくるのを待つてゐました。
夜もだん/\更けて、月が高く昇り、松に吹く風の音がさえにさえて来ますと、果して空から大きな釣瓶が下り
前へ
次へ
全9ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング