金の冠をもつたかはいゝ鶏《とり》ちやん、
つや/\光つた、かはいゝ小頭、
絹のおひげをたらした鶏《とり》ちやん、
窓をごらんな、小さな窓を、
こゝに、りつはな人が来て、
おいしいお豆をまいてゐる、
それでもだれもひろやせぬ。
[#ここで字下げ終わり]
 すると、小さな窓があいて、ひよつこり小さな頭を出したのは、幸坊のをんどりでした。
「あらツ! とうと[#「とうと」に傍点]がゐる!」
 幸坊が声をあげて、走り出したときには、もうおそかつたのです。狐はすぐとうと[#「とうと」に傍点]にとびついて、とうと[#「とうと」に傍点]をとつて、じぶんの巣へくはへて走りました。
「あれ、黒ちやん、狐がわたしをとつてまつ暗な森へ、私《わたし》の知らないところへつれて行く。黒ちやん、早く来ておくれ、たすけておくれ!」
 すると、ふしぎなことには、幸坊の黒猫がどこからか出て来て、ベースの球みたいに、はやく、ぶつ飛んで、狐のあとを追つていき、大きな爪《つめ》を狐の背に打ちこみましたので、狐は痛がつて、鶏をはなしてにげました。
「気をつけなさいよ、とうと[#「とうと」に傍点]ちやん。」と、猫は言ひました。「決して窓からお顔を出しちやいけない。又どんなことを狐が言つても、信じちやならないよ。あいつはおまいさんをたべて、骨ものこしやしないよ。」
 そして、黒はまたどこかへいつてしまひました。


    三

 幸坊《かうばう》は、ふしぎでたまらないものですから、すぐにその小屋のところへ走つて行きました。けれどもそのときにはもうおんどりは小屋のうちにはいり、なかから窓をしつかりしめてゐます。
「とうと[#「とうと」に傍点]や、とうと[#「とうと」に傍点]や!」
 幸坊は大きな声を出して呼びながら、小屋のまはりをまはつてみますけれど、中はひつそりとして音もしません。
「とうと[#「とうと」に傍点]や、私《わたし》だよ。狐《きつね》ぢやないよ。私だよ。」
 幸坊はしきりに窓の戸をたゝいて、をんどりを呼びましたけれど、狐だと思つて、戸を開けません。
「いけないよ、狐さん、私《わたし》をだまして、おまへ私をたべてしまつて、骨ものこさないつもりだらう。」
「さうぢやないよ。私《わたし》だよ。おまいを飼つてやつてる幸坊だよ。狐なんかゐやしない。」
「うそだ。狐さんだ。幸坊ちやんのまねをしてゐるんだ。」
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