、あのね。をんどりが見えなくなつたよ。そこらの藪《やぶ》にでも入つてゐないか見ておいで。悪い狐《きつね》が出るけれど、まさか昼だから、狐がとつたんでもあるまい。」
幸坊はほんとにびつくりしました。あのうつくしい、かはいゝをんどりがゐなくなつたのか。それは大へんなことだ。どうしてもさがし出して来なければならないと思つて、肩からかばん[#「かばん」に傍点]をおろすとすぐ一本の竹切れをとつて、出かけようとしますと、どこからか黒《くろ》が出て来て、にやあんと鳴きながら、あとをついて来ます。
「黒や、いけないよ。おかへり。ぼくはね、をんどりのとうと[#「とうと」に傍点]をさがしにいくんだからね。おまいが犬だとつれていつて、さがす手つだひをさせるんだけれど、猫《ねこ》ぢやだめだ。」
幸坊はしきりに黒を追ひかへさうとしますけれど黒はなか/\かへりません。仕方がないから、ほうつておくと、黒はさつさと先にいつて、畑の向うにある大きな森の中にはいつてしまひました。幸坊はをんどりばかりでなく、黒までゐなくしては大へんだと思つて、
「黒や、黒や。」と大きな声を出してよびますけれどどこへ行つたものやら、わかりません。
森の中は、木の葉や、下草のために、昼でもまつ暗なのに、もう夕方が近いので、なほさら暗かつたのです。
「とうと[#「とうと」に傍点]、とうと[#「とうと」に傍点]、とうと[#「とうと」に傍点]。」
幸坊は一しやうけんめいに声を出して、森の中を歩いてゐますけれど、をんどりは出て来ません。そのうち、どうしたことか、いつも馴《な》れきつてゐる森の中で、すつかり路《みち》をまよつて、どうしても出られなくなりました。
今は、もう鶏や猫などにかまつてをれません。じぶんがどうしてこの森をぬけ出さうかと、困つてゐるとき、ふと向うに小さなうちを見つけました。
「まアよかつた。」と、幸坊は胸をなでおろして、そこへいきかけますと、その小さなうちの、かたくしめてある窓の下に、一ぴきの狐が、はうき[#「はうき」に傍点]のやうな大きな尾を地べたにひいて、おしりをすゑて、しきりにその窓を見てゐます。さて変だなと思つて、幸坊は立どまつて、ぢつと狐のすることに気をつけてゐました。すると、狐はやさしい、やさしい声を出して、かううたひました。――
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カツカコー、かはいゝ鶏《とり》ちやん
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