「はい、その通りでございます。きつと母は私の行衛《ゆくゑ》が知れなくなつたので、ひどく心配して、死にかけてをると存じます。ですから私だけこゝにをりまして結構なものを頂戴《ちやうだい》する気には、どうしても、なれません。」
 王様は子鶉の親孝行な心に大変感心なさいまして、
「これは、私《わたし》が悪かつた。ではお前を放してやりますから、早速おつ母《か》さんのところへ行つておあげなさい。」と、おつしやつて、すぐに籠の戸をお開けになりました。
 子鶉は大よろこびで、お庭の樹《き》の枝へ飛んで行つて止りました。そして、かう申しました。
「尊い王様、今こそ、あなたは私のもとのいゝ声をお聞きになれます。私は、おつ母さんを慰めましたら、あなたが私を放して下さつた御恩返しに、これから二三日おきにこのお庭へ来て、精一ぱいいゝ声で謡つてお聞きに入れませう。では、さやうなら、御機嫌《ごきげん》よろしう。」
 子鶉はもと通りの美しい生々した勢のよい声で、
「チックヮラケー。」と、謡つたかと思ふと、ぱつと飛び立つて、はや姿は見えなくなりました。


    二

 子鶉《こうづら》は急いで巣に帰つてみますと、案
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