やないか? だから私はお前を嘘つきといふのだ。」
「あゝさうだつたか?」と、子の鶉は面目なさゝうに頭を下げました。
「まつたく、そんなことは少しも知らなかつた。みそさゞい君、私《わたし》が悪かつた。どうぞ、ゆるしてくれたまへ。私はこれから、王様のお城へ行つて、その疱瘡の神をみごと追ひ払つて、王様のお寿命を、のばすやうにするから……。」
子の鶉はさういふが早いか、すぐ、まつしぐらにお城へ飛んで丁度王様がねておいでなさる御座敷のお庭の木にとまりました。
なるほど、菊石面《あばたづら》の赤いきたない疱瘡の神が、まるで大きな章魚《たこ》のやうに王様のお体に、ぴつたりと吸ひ付いてをります。それを見ると、子の鶉は、おのれ太い奴《やつ》と、すつかり怒つて、いきなり、大きな声で、
「チックヮラケー/\。」と鳴きました。
「おや鶉が来た。あの鶉が来た。」
王様は重いお頭《つむ》を枕《まくら》の上にもたげ、疱瘡の神は醜い顔を王様のお体から離してこの歌をきゝました。
「チックヮラケー/\。」
鶉の声がます/\冴《さ》えると疱瘡の神は汐《しほ》が退《ひ》いて行くやうに、王様からぢり/\と退いて行きます。それと一緒に王様のお顔には、日がさしてくるやうに血の気が紅々《あかあか》とさして来ます。
「チックヮラケー/\。」
勢のよい、しかも美しい鶉の声にとう/\疱瘡の神は烈《はげ》しい風に吹きとばされる雲のやうに追ひのけられ、王様の御気色《みけしき》はうららかに晴れた蒼空《あをぞら》のやうに美しくなりました。
三
するとまたしばらくお城に子の鶉《うづら》が見えません。王様は、どうしたのだらうか、ひよつとしたら鳥さしにでも捕まつてしまつたのだらうか、さうと思ひ付いたら、早く国中におふれを出して鶉を一さい捕ることはならんと人民に言ひつけて置く筈《はず》だつた、もう今からでは遅いだらう、困つたことをしたわい、と心配しておいでなさいました。
大臣は王様の御心配を見て、もしやそのために又病気にでも、おかゝりになつては大変だと思つて、人を鶉のゐる野原へ遣はして、捜さしましたけれど、ちつとも行衛《ゆくゑ》が分りませんで弱つてをりますところへ、或日《あるひ》鶉がひよつこりとお庭の樹《き》に飛んでまゐりました。そしてお縁先まで近寄りまして、
「チックヮラケー。」と謡《うた》ひました。けれどもその声がいかにも力がなくて、例の疱瘡《はうさう》の神も遁《に》げ出すほどの勢がありません。王様を始め皆《みんな》は、鶉が来たので大変およろこびになりましたが、その声が、いかにも悲しさうなので、不審に思ひました。
「これ鶉。」と、王様はお声をおかけになりました。
「お前が来ないので、もしや鳥さしにでもさゝれたのではないかと、大変心配してをつたが、無事な姿を見てうれしく思ふぞ。併《しか》しお前の歌は今日は非常に悲しいが、一たいどうしたことか? もし心配でもあるなら、私《わたし》に打ち開けて話してくれ、王の力で出来ることなら、たとへ国の半分をつかふことでもお前のためにしてやるから。」
子の鶉はしばらく考へてをりましたが、
「実は私ども母子《おやこ》は、よんどころないことから、もはやこの国に住《すま》つてをられなくなりましたのでございます。」と申しました。
「それは又どういふわけか。私《わたし》の国にをるのがお前はいやになつたのか?」
「いゝえ/\、いつまでも/\をりまして、王様のお耳に私の歌をお聞《きき》に入れることは私の願つても及ばぬ幸福でございますけれど、今をりますところには悪い狐《きつね》がをりまして、私どもの命が危いのでございます。誠に恐れ多いことでございますが、どうぞ私の尾のところを御覧下さいませ。」
王様は鶉の尾のところを御覧なさると、驚いたことには一本の羽も残つてはをりませんのでした。
「おや/\、それは又一たいどうしたことか?」
「その話をくはしく申し上げれば、かうなのでございます。」鶉は次のやうに話しました。
子鶉が或日畑に出て粟《あは》の落穂を拾つてをりますと、どこからか一匹の狐が来て、子鶉に申しました。
「鶉さん/\、お前は誠によく勉強して、おつ母《か》さんに孝行するのは感心なものぢや。お前さんも骨が折れよう。わしは幸ひ隠居の身で、暇が多いから、これからお前さんの手伝ひでもしてあげませう。」
そして、それからは毎日/\精出してよく手伝ひをしてくれました。子鶉はそれを珍しい親切な仕方だと思つて母鶉に話しますと、母鶉は、
「狐は悪賢いものだから、油断をするとどんなひどい目にあふかも知れませんよ。」と注意をしましたけれど子の鶉は余り気にかけないでをりました。
すると或時、子鶉が後《うしろ》をむけて虫をつゝいてゐるのを見て、狐は突然飛びかゝつて
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