どもその声がいかにも力がなくて、例の疱瘡《はうさう》の神も遁《に》げ出すほどの勢がありません。王様を始め皆《みんな》は、鶉が来たので大変およろこびになりましたが、その声が、いかにも悲しさうなので、不審に思ひました。
「これ鶉。」と、王様はお声をおかけになりました。
「お前が来ないので、もしや鳥さしにでもさゝれたのではないかと、大変心配してをつたが、無事な姿を見てうれしく思ふぞ。併《しか》しお前の歌は今日は非常に悲しいが、一たいどうしたことか? もし心配でもあるなら、私《わたし》に打ち開けて話してくれ、王の力で出来ることなら、たとへ国の半分をつかふことでもお前のためにしてやるから。」
子の鶉はしばらく考へてをりましたが、
「実は私ども母子《おやこ》は、よんどころないことから、もはやこの国に住《すま》つてをられなくなりましたのでございます。」と申しました。
「それは又どういふわけか。私《わたし》の国にをるのがお前はいやになつたのか?」
「いゝえ/\、いつまでも/\をりまして、王様のお耳に私の歌をお聞《きき》に入れることは私の願つても及ばぬ幸福でございますけれど、今をりますところには悪い狐《きつね》がをりまして、私どもの命が危いのでございます。誠に恐れ多いことでございますが、どうぞ私の尾のところを御覧下さいませ。」
王様は鶉の尾のところを御覧なさると、驚いたことには一本の羽も残つてはをりませんのでした。
「おや/\、それは又一たいどうしたことか?」
「その話をくはしく申し上げれば、かうなのでございます。」鶉は次のやうに話しました。
子鶉が或日畑に出て粟《あは》の落穂を拾つてをりますと、どこからか一匹の狐が来て、子鶉に申しました。
「鶉さん/\、お前は誠によく勉強して、おつ母《か》さんに孝行するのは感心なものぢや。お前さんも骨が折れよう。わしは幸ひ隠居の身で、暇が多いから、これからお前さんの手伝ひでもしてあげませう。」
そして、それからは毎日/\精出してよく手伝ひをしてくれました。子鶉はそれを珍しい親切な仕方だと思つて母鶉に話しますと、母鶉は、
「狐は悪賢いものだから、油断をするとどんなひどい目にあふかも知れませんよ。」と注意をしましたけれど子の鶉は余り気にかけないでをりました。
すると或時、子鶉が後《うしろ》をむけて虫をつゝいてゐるのを見て、狐は突然飛びかゝつて
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