からとつた毒汁《どくじる》ブシを泥《どろ》にねりまぜたものが塗つてあるので、その矢が中《あた》れば、どんな猛悪な熊でも、すぐ、ゴロリとたふれて死ぬのです。
 ところが、ある日、オサル川の岸を上へのぼつて行くと、近くで、猛烈に熊が吼《ほ》えるのを聞いて、急いで、その方へ行つてみると、驚いてしまひました。一人のアイヌが、大きな熊と、必死となつて、組打ちしてゐるのでした。しかも、そのアイヌはチャラピタだつたのです。チャラピタは大胆にも、大熊のふところにとびこみ、両手両足で大熊の胸にしがみついてゐるのでした。熊は怒つて、チャラピタの頭を、たゞ一口に噛みくだいてやらうとするけれど、チャラピタはそのあごの下に、ピッタリと顔をつけてゐるので、大熊にはそれが出来ません。そこで、爪《つめ》でもつて、八つ裂きにしてやらうとしましたが、熊の手は、人間の手ほど深く内側に曲らないので、ダニのやうに胸にくひこんでゐるチャラピタの身にまではとゞきません。だから、大熊はなほ更怒つて、ウオ/\と吼えながら、この厄介な人間を振り落してやらうと、そこらぢうを飛び廻《まは》り、跳ね廻つてゐるのでした。
 然《しか》し、チャラ
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