仆《たふ》れた――はずですが、不幸、ガチッと音がして、不発でした。さア大へん。もう弾丸《たま》をこめ直すひまもありませんから、いきなり銃を逆手《さかて》に持ち直し、とびかゝつて来ようとする大熊の頭を力まかせになぐりつけましたが、岩のやうなその頭は、銃の台尻《だいじり》の一打ぐらゐは平気です。大熊はいよ/\怒つて、キクッタにとびついて来ましたから、キクッタはひらりと身をかはして、やりすごし、そばの立木の下枝へ手をかけるが早いか、すら/\と、まるで猿《さる》のやうに、その梢《こずえ》によぢのぼりました。
大熊はその木の幹に前脚をかけ、ウオ/\と吼《ほ》え狂ひながら、力まかせにゆすぶりました。生憎《あいに》くその木は小さかつたので、まるで暴風《あらし》に吹かれてゞもゐるやうに、ゆら/\、ざわ/\と動いて、キクッタは今にも落ちさうでした。
しばらく、かうゆすぶつては吼え、吼えては梢のキクッタを見上げてゐた大熊は、やがて何か思ひ付いたやうに、その大きな片手をあげて、小さな木の幹をハッシと打ちました。直径十センチぐらゐの、柔かい、ゑぞ松でしたから、大熊の一打ちに、まるでマッチの棒みたやうに、ポ
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