傍点]であるばかりか、また熊にとつても、大好物です。だから、コクワや山葡萄が沢山生つてゐるところには、きつと熊が来るものです。果して熊の糞《ふん》をキクッタは見付けました。
「やア、親父《おやぢ》(熊のこと)がゐるぞ!」
 キクッタは銃を肩から下ろし、注意ぶかくそこらをあらためました。糞はごく新らしく、あたりの草はふみにぢられて、大きなお盆のやうな熊の足あとがいつぱいついてゐました。
「よし、〆《しめ》た。おれが勝ちだ。この熊をおれがとつてやる!」
 キクッタは胸をどき/\させながら、そろ/\と、なほも足あとをつけて行きました。
 と、たちまち、右手の藪《やぶ》がガサ/\と音がしたので、急いで銃を取り直すひまもなく、いきなり目の前に、牡牛《をうし》のやうな大きな羆《ひぐま》があらはれ、後ろ脚でスクッと立上がり、まつかな口に、氷のやうな牙《きば》をあらはし、ウオーッと吼えました。
「畜生!」
 キクッタはその心臓を狙つて、引金をひきました。
「ドーン」
 鋭い銃声が森に反響しました。射術にかけては、少年の間は勿論大人のアイヌの間にも有名なキクッタですから、大熊はその場に地響きさして、ぶつ
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