ッキと折れて、メリ/\と仆れかけました。しかし、さすがは、キクッタです、その拍子にすばやく、ヒョイとそばの、べつな木にとび移りました。
が、運の悪いときは仕方のないもので、その手のかゝつた枝が枯れてゐたとみえ、ポッキリと音がして、キクッタはずる/\、ズドンと地に落ちました。それと殆《ほと》んど同時に、銃声がひゞいたやうでしたが、すぐ気絶したのであとは分りません。
気がついてみると、自分のそばに、チャラピタが立つてゐました。折りよく、来合はせたチャラピタは、大熊の頭に一発、弾丸《たま》を打ち込んで、キクッタを救つたのでした。
三
キクッタは折角、自分が見付けた熊《くま》をチャラピタの為《ため》に打取られ、おまけに生命《いのち》までも救つてもらつたことになつたので、口惜《くやし》くてたまりません。これからは何んとかして、大きな熊をたくさんとつて、あはよくば、チャラピタの生命《いのち》を救つてやらなければ、一つでも年上の自分の面目が立たないと、せつせと熊をさがして歩きました。
けれども、もう銃はないので、その代りに弓矢をもつて出ました。矢の根には、トリカブトといふ草の根からとつた毒汁《どくじる》ブシを泥《どろ》にねりまぜたものが塗つてあるので、その矢が中《あた》れば、どんな猛悪な熊でも、すぐ、ゴロリとたふれて死ぬのです。
ところが、ある日、オサル川の岸を上へのぼつて行くと、近くで、猛烈に熊が吼《ほ》えるのを聞いて、急いで、その方へ行つてみると、驚いてしまひました。一人のアイヌが、大きな熊と、必死となつて、組打ちしてゐるのでした。しかも、そのアイヌはチャラピタだつたのです。チャラピタは大胆にも、大熊のふところにとびこみ、両手両足で大熊の胸にしがみついてゐるのでした。熊は怒つて、チャラピタの頭を、たゞ一口に噛みくだいてやらうとするけれど、チャラピタはそのあごの下に、ピッタリと顔をつけてゐるので、大熊にはそれが出来ません。そこで、爪《つめ》でもつて、八つ裂きにしてやらうとしましたが、熊の手は、人間の手ほど深く内側に曲らないので、ダニのやうに胸にくひこんでゐるチャラピタの身にまではとゞきません。だから、大熊はなほ更怒つて、ウオ/\と吼えながら、この厄介な人間を振り落してやらうと、そこらぢうを飛び廻《まは》り、跳ね廻つてゐるのでした。
然《しか》し、チャラ
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