、お前は賢い秀雄の足ではないだらう。こら、早く下りろ。でないと、これだぞ。」
お父さんは又三つばかりたゝいた。秀雄さんはべそをかきかけたが、泣きはしなかつた。でも泣きさうな声で言つた。
「お父さん。それはぼくの足ですよ。僕の足、柿の実ぢやないから……」
「なんだ、柿の実ぢやない?」
「さうさ、柿の実ぢやないから、たゝいてもおちやしませんよ。」
秀雄さんはこのあひだ、此の柿の実をとるのに、お母さんや柿さんたちが梯子をかけようといつてさわいでゐるとき、お父さんがきて、
「そんな、めんだうなことをしないでも、たゝけばいゝのだ。」と、いつて、竿《さを》でたゝいておおとしになつたことをおもひ出したのである。
で、秀雄さんのこの言葉をきくとお父さんは思はず、笑へさうになつたのをわざとまじめな顔をしておつしやつた。
「いや、柿の木の枝にのつてゐるからには、柿の実にちがひない。それも、いふことをきかない、悪いしぶ柿だらう。煮てもやいてもくへないやつだ。かう、たゝかなけりやめつたに下へはこないやつだ。」
お父さんはさういつて、又三つばかり秀雄さんの足をたゝいてから、やつと手をおはなしになつた。
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