も、声をかけることをなさらなかつた。びつくりさしては、かへつておちるから、いけないと、お思ひなすつたのだ。
でも飛行機がはるか向ふの空に見えなくなると、しづかに声をおかけになつた。
「秀雄、さあ、もうおりて来なさい!」
秀雄さんは、ひどくしかられるかと思つてゐたのに、お父さんのお顔も、お声もあんぐわいやさしいので、安心して、そろ/\と、屋根のはじまで下りてきた。
お父さんは、そのはじのところに、柿《かき》の木が屋根にくつゝいて立つてゐるのを見つけた。
「ハハア、秀雄は梯子をとられたので、あれをつたつて屋根に上ぼることを考へついたのだな。なか/\賢い。だが、むやみと屋根にのぼるのはあぶない。よし、少し、こらしめて、もう上ぼらないようにしてやらう。」
はたして、秀雄さんは、柿の木が屋根へさしかけたうちの、一番大きな枝につかまつて、うまく柿の木の幹にうつり、だん/\と下りてきた。
ちやうど、お父さんの手がとゞくところまでくると、お父さんは、片方の手で、秀雄さんの足をしつかりとおさへ、も一方の手でその足を二つ三つたゝいて、きびしい声でおつしやつた。
「こら、悪い、言ふことをきかない足
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