秀雄さんはそれでも泣かなかつた。けれども、やつと木から下りて、地へ足がつくとはじめて、わつと大きな声をあげて泣きだした。
 そこへ出ていらつしたお母さんがびつくりなさつて、
「おや、をかしいわね。もうおりてしまつてからなぜ泣くの。うたれたのは、木の上にゐるときだつたのに!」と、おつしやると、秀雄さんは首をふつて、
「うゝん、でも高いところで泣けば、涙で目が見えなくなつて、おりられなくなるもの。だから、ぼく、泣きたかつたけれど、がまんしてゐたの……」
 秀雄さんのいふことが、あまりにをかしいので、たうとうお父さんも笑つておしまひなすつた。そして、なほ、よく/\お父さんから教へていたゞいたので、もう秀雄さんは、けつして屋根に上ぼらなくなつた。尤《もつと》もそのかはりに、それからのち、近くの飛行場にゐるをぢさんところへ行つて、とき/″\ほんとの飛行機にのせていたゞいたから、屋根なんかへ上ぼるのは、もう少しも面白いことゝは思はれなくなつたのでもあつた。



底本:「日本児童文学大系 第一一巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「日本童話名作選」金の星
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