つて一つ下の十七歳、中原は麻の白服にカラーをつけたボーイ姿だつた。二人はこの船に一緒に乗組んでから、まだ一航海をしたつきりなのに、非常に仲好《なかよし》になつて、互に仕事を助け合つたり、相談したり、将来の希望を語り合つたりするのだつた。
「ウルフの畜生奴《ちくしやうめ》、やつぱり出て来ないな。」と、下村は幾分か失望したやうな口振で言つた。「やつぱり帝国軍艦『伊吹』が恐《こは》いのだらう。」
「出て来ないで幸だらうよ。」と、中原は年下のくせに慎重な口のきゝやうをした。「こつちは武装してゐるとは言へ、十二サンチ砲を前後二門づつ載せてゐるつきり、速力だつて、高々十五ノットだ。ところが『ウルフ号』は一万八千噸もある客船を補助巡洋艦に仕立てたんだから、十八サンチが二門に、十サンチが十門も備へつけてあるつて話だ。それに二十二ノツトも出ると言ふから、見つかつたら最後、こつちは撃沈されるか、自爆するかより外に途《みち》はない。」
「さうだな。だが、こつちだつて大砲があるんだから、むざむざやられはしないさ。一発でも二発でも打つて、かなはない時は、この船を爆沈させるだけの話だ。監督将校の堀《ほり》大尉も、
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