を始めました。すると両方へどこからともなく他の悪魔が来て、加勢するものですから、その喧嘩が愈々《いよいよ》大きくなり、遂《つひ》に戦争になつてしまひました。
 それからといふものは、夜昼の区別なく、春夏秋冬、年がら年中、のべつ幕なしの大戦争で、お互に敵に打勝つ手段を考へては、その魔法をつかつて戦ひました。
 腹の黒い悪魔の吐く息は、雲か霞《かすみ》のやうに空を立《たて》こめて、まだ生れてから若い、お天道様の美しい光りも覆ひ隠し、地上はまだ世界がひらけない前のやうに真暗《まつくら》になりました。おまけに唸《うな》り合ひ、啀《いが》み合ふ声は、山々谷々をゆり動かし、足踏み鳴らすその響は地震と雷とを一緒くたにしたやうで、その恐ろしさといつたらありません。
 右の岸の悪魔が大きな岩を雨か霰《あられ》のやうに投げつければ、左の岸の悪魔は、まるで火山のやうに口から火焔《くわえん》を噴き出すといふ具合で、互に魔法のありつたけを尽して戦争しましたが、いたづらに双方が怪我《けが》をしたり、死んだりするばかりで、一向勝負はつきません。
 ところで丁度その時分、神様は余り世界が悪魔ばかりでは、殺風景だからと
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