悪魔の尾
宮原晃一郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)その頃《ころ》は
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|疋《ぴき》の
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)とう/\
−−
それはずつと大昔のことでした。その頃《ころ》は地球が出来てからまだ新しいので、人間はもちろんのこと、鳥や獣すら住まつてゐませんでした。住まつてゐるものはたゞ悪魔ばかりであつたのです。
悪魔たちはみんな恐ろしく長い尾をもつてをりましたので、それを人間で言へば槍《やり》や刀の代りに使つて、のべつ幕なしに喧嘩《けんくわ》をしたり、戦争をしたり、始末におへないので、世界中は治まりがつきませんでした。
こんな悪い悪魔たちでも、やはり仲間とは一緒に住みたいと見えて、とある山の中ほどに大きな湖水のある、見晴らしのよい場所を見付けて、市街をつくつてゐました。
けれどもこの湖からは、一筋の大きな河が流れて丁度《ちやうど》悪魔の市《まち》の真ん中をとほるものですから、いつかしら悪魔たちは右の岸、左の岸と二派に分れましたので、とう/\喧嘩を始めました。すると両方へどこからともなく他の悪魔が来て、加勢するものですから、その喧嘩が愈々《いよいよ》大きくなり、遂《つひ》に戦争になつてしまひました。
それからといふものは、夜昼の区別なく、春夏秋冬、年がら年中、のべつ幕なしの大戦争で、お互に敵に打勝つ手段を考へては、その魔法をつかつて戦ひました。
腹の黒い悪魔の吐く息は、雲か霞《かすみ》のやうに空を立《たて》こめて、まだ生れてから若い、お天道様の美しい光りも覆ひ隠し、地上はまだ世界がひらけない前のやうに真暗《まつくら》になりました。おまけに唸《うな》り合ひ、啀《いが》み合ふ声は、山々谷々をゆり動かし、足踏み鳴らすその響は地震と雷とを一緒くたにしたやうで、その恐ろしさといつたらありません。
右の岸の悪魔が大きな岩を雨か霰《あられ》のやうに投げつければ、左の岸の悪魔は、まるで火山のやうに口から火焔《くわえん》を噴き出すといふ具合で、互に魔法のありつたけを尽して戦争しましたが、いたづらに双方が怪我《けが》をしたり、死んだりするばかりで、一向勝負はつきません。
ところで丁度その時分、神様は余り世界が悪魔ばかりでは、殺風景だからと
次へ
全5ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング