言つて、鳥や獣や、それから人間もこしらへて、住まはせようと、まづ、草や木の種子《たね》をお播《ま》きになつたのが、ほんの少しばかり芽を出しかけてをりました。それだのに悪魔どもがこの大戦争を始めましたおかげで、せつかくの神様の思召《おぼしめし》も無駄《むだ》になつて、そんなものは皆踏みにじられ焼き枯らされてしまひました。
けれどもこの悪魔のうちに、一|疋《ぴき》の大きな悪魔がゐました。この悪魔は体が大きいばかりでなく、魔術を一番沢山知つてゐて、元は神様の御使ひの一等よい一人でありましたから、よく神様の御心《みこころ》を察することが出来ました。ですから、自分では余り戦争なんて下らないことはしないで、他の悪魔が一生懸命に生命《いのち》の取遣《とりや》りをしてゐるのに、お尻《しり》をそこにドツカと据《す》ゑ込み、煙草なんか吹かして、たゞ見てゐるだけでした。
ところが、こんなに戦争がひどくなると、大悪魔はお日様が曇るやうな大きな眉《まゆ》のよせ方をして、独り言を申しました。
「これはどうも賢いことでない。こんなに大きな戦争を永く続けては、しまひには我々悪魔の種族は皆殺されて、根絶やしになつてしまふ。ひよつとしたら、神様もそのつもりで、黙つて、内輪喧嘩をおゆるしになつてゐるのかも知れない。せつかく神様がお播きになつた木や草の種子までも、悪魔が踏み荒しても黙つておいでなさるところを見ると、これからおつくりになる人間にこの世界を渡してしまふため、先づ悪魔同志喧嘩をさして、悪魔が自分から滅びるやうにお仕掛なすつたかも知れない。これは早く戦争をやめさしたがいゝぞ。」
で、大悪魔は大きな声で叫びました。まつたく大きな声――まるでお寺の鐘を千も一時に搗《つ》き鳴らしたやうな大きな声で、ゴーンと山から山へ、谷から谷へ響き渡るほどの声で叫びました。
「皆しづまれツ! 戦争|止《や》めツ!」
とにかく、大悪魔の声に、戦争は一時中止されました。けれども平和会議を開いて、今後は悪魔の仲間では、戦争をしないことにきめなければなりません。
さて当日の会議には例の大悪魔が大演説をやりました。
「諸君、私《わたし》は神様が人間といふものをこの世界におつくりになつて、それに世界ぢうのものを皆与へ、世界の主とする御決心をなさつたことを勘付きました。諸君の足の下に踏みにじつた草や木の芽生えはその人間にお
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