げ終わり]
 まつたく、天照大神が天の岩戸に隱れ給うたときのやうに、まつたく蒼蠅《さばへ》なす、もろ/\のまがつみが國内にみちたのでした。然し、それもしばし、やがて地は黒闇々たるわだつみから、よみがへりました。古代のスカンヂナヴィア詩人はその有樣を斯ううたつてをります。
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今われ、
地の新たにわだつみの浪の中より
緑りとなつて立昇るを見る。
瀧はおち、鷲はとび、
岩根の淵の魚をとらふ。
イザヴォルにもろ/\の神、
かんつどひまして、
地を取り卷く、
かの恐ろしき大蛇について、語らせ給ひぬ。
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 そこで、種子をまかぬ畑に實が生り、熟し、すべての惡は善とかはり、純潔の神バルドル Baldr は再び歸つて來ました。正義の君主たちは、黄金の屋根をもつ、ギムレイ Gimle の高樓に住んで幸福に暮らし、天からすべてを支配して、最高の審判をする王が降つてくる。地の底からは惡龍が上つて來て、人間の死骸をその翼にのせて運び去るといふところで、巫女の託宣の歌は終つてゐます。
 初めの部分は異教的でありますが、最後はどうもキリスト教の影響が多いやうであります。特に純潔の神バルドル Baldr の再來は、キリストの復活とよく似てゐます。
       五、『エッダ』の各篇
 然しバルドルの死は全然キリストのそれとはちがひます。それは此の篇の補遺とも見るべき、『バルドルの夢』Baldrs drumar に斯ううたつてあるのでわかります。
 惡夢を見たバルドルの身を心配したオージンは巫女にきいてみると、自分の息子の爲、冥土の國では、もう座席を設けてゐるといふことが分りました。バルドルの母フリッガ Frigga はそれを知つて、非常に驚き、悲しみ、バルドルが夭折しないやうにと、あらゆるものに、バルドルに危害を加へないやうにと約束をさせましたが、只、やどり木だけは小さな、つまらぬものと思つて、うつかりと約束をしなかつたが爲に、それで造つた矢に射られて死んだといふのであります。ギリシヤ神話のアキレスの致命の踵がここでは、武器の方に移つてゐるのは面白いではありませんか。またこれは濃やかな母性愛をあらはした、北歐神話中の名篇であります。
『エッダ』の中にはこの外に、主神オージンの箴言集、教訓集のやうな『ハァ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]マール』Ha
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