やから》ヘイムダールの御子達
  戰ひに仆れしますらをの父よ!(註、主神オージン[#「オージン」は底本では「オージシ」])
  汝は遠き昔の人々につきて
  わが憶えをる昔語り
  語り聞かせよと、われに求む。
  われは猶、古への巨人《おほぴと》をおぼゆ
  過ぎにし日、われに糧《かて》を與へにし……
二、九つの世をもわれは知れり
  土の下に大いなる根を張りし
  大いなる木の上にありしてふ(註、イグドラシルといふとねりこの木)
  九つの世界をも。
三、その昔、ユミールに住みし世は
  海も、冷たき浪も、砂もなく
  大地も未だなく
  その上に蒼穹《おほぞら》もおほはざりき。
  只果てしなき深き淵の
  口あけてゐたるのみ。
  草一つだになかりき。
四、さるをブゥルのみ子たち
  平らなる地をもたげ
  そこに中つ國を建てぬ(註、中つ國の名はミズガルド)
  日は南より岩をあたゝめ
  地は韮《にら》をもて青みたりき。
  月の姉なる日は南より
  その右の手を天のはじにかけぬ、
  何處をわが家と知らざりければ……
  日もまた居るべきところを知らず
  星も定まる宿を知らざりき。
[#ここで字下げ終わり]
太古 天地 の初めは渾沌として無であつた。その渾沌の中にブゥルの子たち、即ち、オージンとその兄弟ヴィリ、ヴェとが國造りのわざをする。その業とは巨人ユミールを殺すことでした。巨人の血は大海に滿ち、その骨は大山嶽となり、齒は巖となり、頭蓋は天に、髮は樹木に、腦味噌は雲になつたといひます。そこで形勢が變つてアスガルド、即ち神の國が出來ましたが、神々もまた運命を免がれることは出來ません。殺戮の罪や、契約違犯の罪など、樣々な罪を犯した神國には、巨大な海蛇や、死の船や、冷酷な惡魔ロキや、地獄のムスペルヘイムの怪人、火の巨人スゥルトウなどが、ぞく/\と押し寄せて、破滅の力をふるひ、主神オージンは狼フェンリルに殺され、雷神トォルは海蛇に打負かされ、オージンの娘フレイヤは火の巨人に殺されました。さうした世の終りといふべき光景を、『エッダ』はその獨特な簡潔な表現で、斯う歌つてをります。
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天つ日は暗く、
大地はわだつみに沈み、
熱き星々は空より落ち、
烈しき湯氣はうづまきぬ。
生命を養ふ火は、
焔と立騰りて、
み空をこがしたりき。
[#ここで字下
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