に立つた人であります。
 デンマルクのローマンチストと言へば、私共はハンス・クリスチャン・アンネルセン H. C. Andersen 所謂アンデルセンを忘れることは出來ません。アンデルセンといへば、直に鴎外の『即興詩人』を想ひ出すほど、我々には知られてをります。私もその現代語譯を出すと間もなく、大地震で、絶版となりました。童話の作家としては王位にある人ですが、他の方面ではそれほどではありません。
       十七、自我主義の詩人哲學者
 ロマンチズムは哲學思想の方面で詩人哲學者キェルケゴォル S. A. Kierkegaard を出しました。彼の大著『あれか、これか』Enten−eller『人生の段階』『哲學小論』『哲學小論集成』等は日記、書簡論文、説教などの形で書いた、秀れた文學であります。自我的、厭世的、虚無的でありながら、キリスト教的敬虔な思想はスカンヂナヴィア文學者たちに、たとへばイプセンに、またストリンドベーリに大なる影響を與へ、引いては歐洲、近代思想の先驅者の一人に數へられるに至りました。彼の思想は近年ます/\歐洲の哲學思想に大きな影響を與へてゐると申します。私は自分が譯した『憂愁の哲理』のなかから、彼の警句の一、二を引いて彼の思想のほんの一端をのぞいてみたいと存じます。
「大人は少年の夢を實現するものである。人はその實例をスウィフトに見る。彼はその少年時代に癲狂院を建て、成年の後、自らその中に收容された。」
 また――
「芝居の脇道具で火事が起つた。道化師《ピエロォ》が舞臺の前に立つて、觀客にそれを知らした。觀客はピエロォの洒落と思つて喝采した。ピエロォは重ねて火事を知らした。然るに人々はます/\笑つて喝采した。私は思ふ、世はこの樣に、それを洒落だと思つてゐる洒落者共の一般的歡迎のうちに亡びてしまふだらうと。」
 キェルケゴォルの大著『あれか、これか』や『人生の段階』は、文學としてもニイチェの『ツァラツゥストラ』に勝るとも劣らぬものであります。
       十八、スウェデンのローマン主義
 スウェデンへはデンマルクを通してローマン主義が入りました。此の派の詩人で有名なものはアルムクヴィスト Armkvist、テグネール Tegner、リュドベーリ Rydberg でありますが、中にもテグネールは有名で、其の『フリーヂョフ物語』Fridjef sag
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