譯を、手の及ぶ限り買ひ集め、一々原文と對照して、その誤譯を指摘して博文館の雜誌『太陽』を始め、いろ/\の雜誌で、こつぴどく譯者をやつつけたのだつた。
森鴎外が一番手痛くやられ、次が島村抱月だつた。特に『人形の家』は完膚なきまでにやつつけられた。遠藤と本名を出さず、「シサベノメカリ」といふ匿名だつたので、筆者の誰なるかについて大分痛くない腹をさぐられた人もあつたらしい。シサベは博士の故郷函館の濱のアイヌ名、メカリは布刈りで、海藻取りの意味である。筆者の海藻學者たることを示してゐる。
鴎外はたまりかねたと見え、隨筆集みたやうなもので、皮肉とも、反駁とも、又泣言ともつかぬことを書いたが、すぐ遠藤博士の署名した駁撃にあひ、ギューの音も出なくなつた。
他の譯者もそれぞれ痛棒を喰はされはしたが、『小さなイヨルフ』を譯した三浦文學士(?)は割合に褒められた。そして、重譯のテキストなら、ドイツがよろしいと附言された。
間もなくイプセンはすつかり下火になつたが、昭和三年、わざ/\高い版權を買つて、その會員の手で、完全なイプセン全集を出す計畫をたて、着々準備をすすめてゐた。そして譯は全部、私がノル
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