から斷言は出來ないが、それを底本にしたと稱する日本譯を見ると、『お前も、やつぱり女だなあ』といふやうに、やはり他の臺詞と同樣な現代語に譯してあるところを見ると、英譯と五十歩、百歩であらう。然しそれでは原作の冗談を言つてゐるのがはつきりしない。又その次の「だが、ノーラよ、眞面目にいふが」(この文句も斯う直譯してはだめだ)といふ臺詞も一向に引き立たない。
 だから原作の眞の味を出さうとならば、
「げにも、汝は女なるよな。だが、冗談は拔きにして」といふやうな、古るめかしく、從つて冗談めいて譯さなければならない。だが、重譯には底本に遺漏があるのだから、斯うした遺憾の點はどうしても免れないであらう。尤も楠山正雄の譯では私が校訂したから、この處は「女なり」と直つてゐるが……
 イプセンの日本譯について、片つ端から誤譯を指摘したのは、今は故人となつた元北大水産科の教授理學博士遠藤吉三郎であつた。遠藤博士は海藻が專門であつたので、他の學者の餘り行かないノルウェイに留學して、ノルウェイ語が出來た。そして文學が好きなところから、イプセンの全集を買つて歸つたのが、大正四年頃で、丁度、うんと出版されてゐた日本
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