つちの男が、答へました。それが土地の言葉である上、何んだか声にも聞き覚えがあるやうでした。
「考えて見ろ。ブレツといや、キャラ侯の厩《うまや》のうちばかりでねえ、北満洲《きたまんしう》、蒙古《もうこ》きつての名馬だぞ」
「さう云《い》や、さうだが――すると、馬を渡すのはいつだい」
「明日、渡してやる」
「間違ひないな。それぢや、手附金《てつけきん》五十両やつて置く」
 長い赤鬚の馬賊は、ピカ/\光つた銀貨をかぞへて、そこに出しました。それを、こつちへ後ろを向けてゐる男が、受取る拍子に、ふとその横顔を見せました。
「あツ!」
 ニナール姫は思はず、小さな驚きの声をあげました。それはニナール姫の馬の世話をしてゐる馬丁のアルライだつたからです。
 アルライはニナール姫の小さな叫びをきゝつけて、すぐに戸を開けて、炬火《あかり》をつけました。けれども、ニナール姫はすばやく、隅《すみ》の方の壁にピタリと身を押し付けましたから、見付かりませんでした。
「何んだい」と、馬賊の一人が声をかけました。
「何んだか声がしたので、又|誰《だれ》か来やがつたと思つたんだが、空耳だつた」
と、アルライが答へました
前へ 次へ
全24ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング