が顔をなで、黴《かび》つ臭いにほひが鼻をうちました。然《しか》し、何分、まつくらなので、足元があぶないからちよつと立ちすくんでゐましたが、フト前の方に、かすかに燈《あかり》が見えて来ました。
「あゝ、やつぱりお父様が、誰《だれ》かにいひつけて、燈火《あかり》をおつけさせになつたんだわ。ジウラさんも、きつと、あすこにゐるでせう」
ニナール姫は、足元をさぐり/\、そつと奥へすゝみました。すると、二三人の男の声で、何やら話してゐるのが聞えました。それがこゝらへんの言葉でないらしいので、賢い姫ははて、変だと感づいて、いよ/\そつと進んで行きますと、燈明《あかり》は塔の北側の部屋からもれてくることが分りました。そつと忍寄《しのびよ》つてのぞくと、その中には、三人の、馬賊らしい、鬚《ひげ》モジャの男たちが、あぐらをかいて、坐《すわ》つてゐました。そのうちの二人だけは入口に向かつて坐り、そばに馬の鞍《くら》やら、馬具の類やら、宝石をちりばめた短剣やら、美しい手箱などが置いてありました。
「もう少し負けねえか」
と、そのうちの一人が、こちらへ後ろを向けてゐる男に言ひました。
「一銭も負からねえ」とこ
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