また燈火《あかり》をつけました。そして「親分ですか」と低い声で訊《き》いてみました。そのときには、足音はもう、ごく近くに来てゐました。
「うん、待たせたね」と、闇《やみ》の中で、太い声が答へました。それは変でしたけれど、中の馬賊は気がつきませんでした。
「ちよつと、入口まで出てくれ」と、その声は言ひました。
「ヘイ/\。あの人質もつれて行きますか」
「いや、お前だけでいゝ」
 賊は火のついた蝋燭《らふそく》を手にもつて、戸口を一歩踏み出すと、忽《たちま》ち、何者にか足をさらはれて、バツタリとそこに仆《たふ》れました。
 そのとき、懐中電気の光りが、まばゆく目をいました。そして、しまつたと思つたときには、もうきり/\と、後ろ手にしばり上げられてゐました。
「ハハハ、うまくつり出されたな。斯《か》うして置けば、ジウラ殿下はもう大丈夫です」と、守備隊長が言ひました。「いや、どうもニナール姫さまの、何から何までお気づかれるのには、恐ろしいくらゐでございます。外の方も網が張つてありますから、馬賊がくれば、すぐ捕へます」
 その言葉が終るか終らぬうちに、塔の外で、烈しい銃声が起つて、人の叫びのゝし
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