鳴らしました。
「だつてお父様、ジウラさんは男のくせに、お馬にのることが下手で、落ちるのが恐《こは》いからいやですつて行かうといひませんもの」
 キャラ侯は八の字を額によせました。
「フム、蒙古《もうこ》の王子が馬にのることが下手では困つたものだね。よし/\、わしに考へがあるから、ぢや、今日はお前ひとりで行つてもよろしい。だが近頃《ちかごろ》、馬賊がこのへんの山にはいつて来たといふことだから、よく気をつけなさいよ」
「大丈夫よ。ブレツに一むちあてれば、馬賊なんか追ひ付きつこありやしませんわ」
 ニナール姫は、さういふが早いか、足で一つ、ブレツのお腹《なか》をポンとけると、矢のやうに、向ふに高くそびえるギンガン嶺《れい》の方をさして、走《は》せ去りました。

 ニナール姫はこのギンガン嶺の麓《ふもと》に、お城をかまへてゐる、満洲《まんしう》貴族の一人子でした。お母様は蒙古の王様からお嫁に来てゐらつしたのですが、さき程、病気でお亡くなりになりました。お父様《とうさん》のアイチャンキャラ侯は、たつたひとりぽつちのニナール姫が、淋《さび》しいだらうと、従兄《いとこ》に当るジウラ王子を蒙古から呼
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