も村の外に出でたり、路傍の一里塚《いちりづか》も後になりて、年|経《ふ》りし松が枝も此方を見送り、柳の糸は旅衣を牽《ひ》き、梅の花は裳に散り、鶯《うぐいす》の声も後より慕えり、若菜摘める少女ら、紙鳶《たこ》あげて遊べる童子ら、その道この道に去り来る馬子らも、行き逢う旅人らも、暫時|佇《たたず》みてはるかにゆく一行を眺《なが》めやりぬ、早や一里余も来ぬると思うころ、大仏と言う川の堤に出て、また一町余にして広々たる磧《かわら》に下り、一行はここに席を列《つら》ね、徳利を卸《おろ》し、行炉を置き、重箱より屠《ほふ》れる肉を出し、今一度水にて洗い清めたり、その間にあるものは向いの森より枯枝と落葉を拾い来たりて燃しつけつ、早やポッポッと煙は昇れり、
この大仏川の磧は、この近郷の留別場にしてかねてまた歓迎場なり、江戸詰めの武士も、笈《おい》を負いて上京する遊学者も、伊勢参宮の道者本願寺に詣《もう》ずる門徒、その他遠路に立つ商用の旅なども、おおよそ半年以上の別離と言えば皆この磧まで送らるるなり、されば下流に架《かか》る板橋は、行人の故郷を回顧する目標なるがゆえに見返りの橋と名づけられ、向いの森は故
前へ
次へ
全36ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮崎 湖処子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング