パシ火の子のハシる阿園が棺の火は、さながら地獄の無尽焔とも見えたり、目を瞑《と》じて静かに考うれば、これまでの無量の罪業ことに阿園の忌中五十日間の心術と所業と、一層明白に浮び来たり、一七日の法事を営み了《おわ》り墓に詣りて香花《こうげ》を手向《たむ》けたること、勇蔵が遺物と逸事をもって阿園の喜びに入りしこと、再度徳利と菜籠を提げて阿園を訪いたること、ついに阿園と寝たること、歴々としてなお閻王《えんおう》の法廷に牽《ひ》かれて照魔鏡の前に立たせられたるに異ならず、しかして今しも吹くる風、怪しくも墓の煙を彼が身辺に吹きよせたり、
やがて影薄き新月山の端より窺い出づれば、今まで隠れたる野辺の景色は、たちまち妖魔《ようま》怪物のごとく飛び出でて、彼を囲めり、今は驚く気力も消え、重傷を負いたる人のごとく重き歩みを曳《ひ》きずりつつ、交路《つじ》に立てる石仏の前を横ぎり、秋草茂れる塚を過ぎ、パラパラ墓と称する墓場を経《へ》、雨夜に隠火の出づると言う森と、人魂の落ちこみしと伝うる林を右左にうけて通りこし、かの唐碓の渓《たに》の下流なる曲淵《まがりぶち》の堤に出でたり、
両岸の楊柳は風に揺られ、疎
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