ろ、思いがけなく一群の人の此方に向いて来たるに遇えり、彼は立ち留りて窺いたるに、これは皆村人にてしかも阿園の葬式の帰りなりき、佐太郎は再び愕《がく》としてあたりの櫨《はぜ》の樹蔭に身を隠したり、群は何の気もつかず、サヤサヤと私語《ささや》きあいつ緩々《ゆるゆる》その前を通りすぎたり、彼は耳を澄まして聞きたるに多くの言語相混じてしかと分らざれど、彼はかく聴き取りぬ、「縊れてまで死ぬるとは誰にいかなる遺恨あってぞ」「何ゆえ死にしか和主がほかに知るものなし」「憐れ憐れ誰が殺せしぞ」「伯父よ佐太郎主が縊り殺せしとか」と、彼は再び消え入ったり、
一群ははるかに去りて暗光はドップリと暮れゆき再び来る人もなかりき、されど彼は阿園が棺とその葬式の道を恐れて出でず、なお樹下に潜みいつ遠近《おちこち》と夜の影を見回せり、彼の心には現世ははるかの山の彼方になりて、ココは早や冥土《めいど》に通ずる路のごとく思われ、ヒヤヒヤと吹き来る風は隠府の羽を延ぶるがごとく、眼前に闇よりもひときわ黒く釣《つ》られたる案山子《かかし》は焼け焦《こが》らされし死骸のごとく、はるかの彼方に隠々として焔えつつ遠くなり近くなりパシ
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