見するほどなりき、しかして彼また決して臆病者にあらず、謹厚の人もまた絳衣《こうい》大冠すと驚かれたる劉郎《りゅうろう》の大胆、虎穴《こけつ》に入らずんば虎子を得ずと蹶起《けっき》したる班将軍が壮志、今やこの正直一図の壮年に顕われ、由々しくも彼を思い立たしめたり、
「和主《おぬし》が戦争にゆくとか」「しかり」「げにか」「げによ」「そは和主にしては感心のことなりいかにしてしか思い立ちしや」「どうという子細《しさい》はなけれど、いつまでかくてあるも不本意なれば、金を得て身を立てんとも思うなり」「和主には金より命の惜しからずや」「命とよ命は大丈夫なりわれらは戦うものにあらず、ただ戦場のはるか後まで兵糧弾薬を運ぶ人夫なれば、命は兄貴大丈夫なり」
これまでただ佐太郎を試みたる勇蔵も、すでに旅装束して来たれる彼が気胆に痛くも打たれぬ、「シテ一日に幾何の賃銀を得べきか」「しかとはわれも知らねど、一日半金ないし一金を得べしと聞けり」「一日に一金とよ……和主一個か」「独《ひと》り」「他に誰も伴わなきや」「誰もなしただわれ独りなり」「かほどの思い立ちをわれに告げずということやある」「否告げてすげなく留めら
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