村人ことに女房、朋友、小供らに対しいかにして再び顔を合わすべきかを思い、ついには裏の戸を抜け、唐碓の小屋の傍に出て、流れに沿いて麓を下り、もってその身の棄てどころを尋ねんと思い、山をたどり峰に登り谷に下り森に入って、いずこにても縊り死すべしと思いたり、彼はかく一様のことを幾たびも繰り返しつ、千緒万端思考したれども、ただ茫然《ぼうぜん》として仆《たお》れたる一事のほか何のなすところもなかりしなり、
彼はその罪を懐《いだ》きて眠れり、彼は直ちに眠りに就きしもその罪は生きており、種々異様の形を取り夢路を遮《さえぎ》って彼を悩ませり、その最も恐ろしかりしはこれなりき、ある短き日の夕彼はいずこともなく旅立って野路を行き、日没に及んで茫々たる墓場にさしかかれり、彼がまさに行き過ぎんとするや否、路傍に差し出でたる二個の新墓、忽然《こつぜん》として動《ゆる》ぎ出て石の下より一声「待て」と呼ぶや否、両頭の大蛇首を挙げて追い来たれり、彼は飛ぶごとくして遁げ走りたるも、足はただ同じ地のみを踏める間に大蛇はすでに寸後にせまり、電火のごとき二条の舌ズッと彼が頸《くび》を嘗《な》めたり、彼はみずから驚く声に目覚
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