せしぞ」「伯父よ佐太郎主が縊り殺せしとか」ああ怨めしき阿園、情なきことせしものぞ、かくなることとは露知らざりしも、かくなる上はわれが殺せしと言わるるとも言い開くべきようなし、悲しいかなやんぬるかなと、彼は怨めしげに自身の手足を視回《みまわ》しては太息し、愛憎なげに己が影を眺めては太息せり、彼はなお幾たびか阿園の両親に懺悔《ざんげ》せんと思い、また阿園のごとく死なんとまで思うこともしばしばなりき、しかして彼はつらつら思い回《ま》わせり、「もし懺悔せんとせばげに懺悔すべき罪あり、もし死なんとせばげに死すべき罪すらなきにあらず」と、彼はさしあたりなすべきことを考えたれど、ほとんどなすべきことを知らざりき、げに彼はまさに死なんとする蒼顔《そうがん》の勇蔵を呼び起して詫《わ》び、恐るべく変りし阿園に向いて悔い、厳《いか》めしき里方の父にいかに懺悔の端を開くべきか、打ち沈めるその母をいかに慰藉すべきか、彼らは阿園が死を己れに帰せざるがごとしといえども、その実は己れを怨み初めより己れの懺悔慰藉を拒むものにはあらざるか、よし拒まずとするも事すでに後れたるにはあらざるか、よしまたすべてがよろしきにもせよ
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