のありてぞ」壮年の一人「何ゆえ死にしか和主は必ず知りおらん」壮年の今一人「しかり和主がほかに出入りしたるものもなければ」今一人「アア憐れ憐れ、誰がかように殺したるぞ」小供ら「伯父よ佐太郎主が縊り殺せしとか」
佐太郎は一言も答えず、答うることあたわざればなり、両親は顔を挙げつ、娘の死を他の咎《とが》によらずして、最初に還らざりしその不了簡に帰し、日も暮るれば死人をうちに容《い》れて逮夜《たいや》せんと、村人に謝礼しつ、夫婦して娘の死骸を抱き上げたり、父老壮年、その傍に立ちしものは皆手伝えり、ただ佐太郎のみ佇《たたず》みたるまま手をも挙げざりき、やがて群集はおのおのその伴を呼びつつ罵《ののし》り帰り、時々振り回《かえ》りて佐太郎を見やれり、佐太郎は人影の遠ざかるを待ち、ツト戸の内に駈けこまんとしては身を返し、再び入らんとして再び入らず、ひそかに戸のうちを窺《うかが》い、その両親のヒッそりとせし闇の中に咽《むせ》べるを聞き、ついに得入らずしてひき返せり、
彼は影のごとくわが家に帰り、行燈を点《とも》してその前に太息《といき》つきぬ、「何ゆえ死にしか和主がほかに知る人なし」「憐れ憐れ誰が殺
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