ば、裏の圃《はたけ》に大葱《おおねぎ》の三四茎日に蒸されて萎《な》えたるほか、饗応《きょうおう》すべきものとては二葉ばかりの菜蔬《さいそ》もなかりき、法事をせずば仏にも近所にも済まず、営まんには物なければ、彼はいと痛う哀れになり、もはや世に棄てられたるように感ぜり、折々窓より外面を眺めても、村人はただ己《おの》がじしその野に労するのみにて、人には一|把《わ》の菜の慈悲もなかりき、今はジリジリ移りゆく日影を見るに堪えかね、仏壇の前に伏して泣きたり、哀れの寡婦よ、いかばかり悲しかりけん、さりながら慈悲深き弥陀尊《みだそん》はそのままには置き給わず、日影の東に回るや否、情ある佐太郎を遣《つか》わし給えり、彼は瓜《うり》、茄子《なす》、南瓜《かぼちゃ》、大角豆《ささげ》、満ちたる大いなる籃《かご》と五升入りの徳利とを両手に提《さ》げて訪い来たれり、「姐子《あねご》今日は兄貴が一七日、大方法事を営まるることと、今朝寺に案内し、帰るさに三奈木の青物店に立ち寄り、初物品々買うて来ぬ、兄貴は大角豆が好きなりしゆえ、余分に求めしわが寸志、仏前に捧《ささ》げられたし、もしこの籠《かご》一個にて今日の法事の
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