りぬ、
翌朝阿園が里方の父来たり、村人も皆訪い来たれり、父は佐太郎が持ち帰りし三十両を改めて己が手に納め、勇蔵は上より戦場に埋められたれば再び葬式を営むの要なきことを主張し、直ちに阿園を引き取らんと言う、村人も大概その儀を賛しぬ、佐太郎のみさきに寡婦に誓いしごとく、情なき里方の処置に対して寡婦の力となり、一身を投げて彼方此方に奔走し、ようやくにその議を翻し、寺院にも葬儀を頼み、大工にも棺槨《かんかく》を誂《あつら》え、みずから犂《すき》をとりて墓を掘り、父老、女房、勇蔵夫婦の朋友を呼びて野辺送りに立たしめたり、阿園が尼になるの一事は、里方は痛く怒りたれど、これも彼が周旋にて、忌中五十日の間ともかくもこの家にて喪を守ることを許されぬ、
阿園が尼の願いいと切なりければ、佐太郎はなお陳述するところありしかど、里方は少しも動く様子なく、ただとにかくに此方より返事するまで待ちおるべしとのことなりければ、今は推して乞わんようもなかりき、
この五十日間は阿園が心の還俗《げんぞく》するか、里方が尼の願いを許すか、両者その一に定まるべき期限なりし、その後里方は娘が心を回《めぐ》らさんともせず、また
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