す。きかしましょうか。
山中「拝聴拝聴。
女「アノさっき私しが湯に行きましたろう。すると留守に黒鴨《くろがも》のこしらえでリッパな車夫がきて。あなたおうちかッて聞きましたッて。清《きよ》がるすだッていいましたら。では後ほどまた伺います。ぜひお目にかかりとうございますからッて。帰りましたッて。清がそういいましたよ。大へん品のいい西洋服のお嬢さんが。格子の外に車にのってまッていたッて。なんでもキットあの方にちがいないと思いますわ。
山「だれ。
女「おとぼけなさるなヨ。しれたこと。しの原さんのヨー」と少し鼻ごえで力を入れていう。
山「アアあのおてんばか。僕がしばらく行かなかったから。英書の質問に出かけてきたんだろう。あの西洋好きにも困るよ。傍へよるとなんだか毛唐人くさくって。
女「オヤいつ傍へよって。
山「そりゃアなにサ。毎日毎日けいこに行くから。あのちぢれっ毛の前がみをつきつけられつけていらア。
女「だけれどこうしていてもそんな別品がきちゃア気が気じゃアないワ」とすこしわらいながら。
 ほんとに姉女房は心配だワ。だけれどキットうしろぐらいことはないのエ。後暗いことは。エエ。
山「ナニあるも
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