当箱など。まず出来星の官員ならんか。湯がえりとおぼしく。目のふちをほんのりあかくして。窓の上へ鏡をのせ。しきりに頭をかきつけていると。あだなる声にて。
女「アーあたしがそう申すよ」と二階をどんどんあがってきて。チョイと顔を出し。
女「オヤきれいにおつくりが出来ましたネ。たばこの火を持ってきました」と十のうを片手にもって。火鉢《ひばち》の傍へチョイと立てひざをしてすわる。年ごろは三十ばかり色浅黒くして鼻高く。黒ちりの羽織も少し右の袖口《そでくち》のきれかかりたるに。鹿《しか》がすりの着物えり善好みの京がのこも。幾度かいけあらいをしたという半襟《はんえり》をかけて。小前がみのあとのすこしはげたるを。松民《しょうみん》の蒔絵《まきえ》をした朱入りの櫛《くし》で。毛をよせてぐっと丸わげの下へさし込んでいる。ハテあやしやナアというけだもの。火を火鉢へとりながら。一心に巻きたばこの死がいを片づけている。年に似合わず口のきき方はあどけなきかたなり。
女「ネー山中さん。モーいいかげんにしてこっちをおむきなさいヨ。あのネさっき……あの今におたのしみ。
山中「ナゼ。
女「なぜッて大へんにいいことがあるので
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