などさまざまありて。午前一時ごろ馬車の先追う声いさましく。おのおの家路におもむきぬ。これはこれ鹿鳴館《ろくめいかん》の新年宴会の夜なりけり。

     第二回

 今川小路二丁目の横町を曲って三軒目の格子造り。表の大地は箒木目《ははきめ》立ちて塵《ちり》もなく。格子戸はきれいにふききよめて。おのずから光沢をおびたり。残ったる番手桶《ばんておけ》の水を撒《ま》きたるとおぼしき。沓《くつ》ぬぎのみかげ石の上に。二足ばかりしだらなくぬぎすてたるこま下駄《げた》も。小町という好み。二階には出窓ありて。竹格子にぬれ手ぬぐいのかかりあるは。下宿屋にもあらず。さりとて学校の外塾には無論なし。察するにこの二階は。主《あるじ》の死去したるかまたは旅行中にてあきたるがゆえ。日ごろ懇意なる人に。どろぼうの用心かたがた貸したるとおぼしけれど。これも少し無理こじつけの鑑定なるべし。この二階の食客《いそうろう》は。年ごろ二十七八にして。目鼻クッキリと少しけんはあれども。かかる顔だちをイキとやらたたえて。よろこべるむきの人もありとぞ。チョイと二ツにたたんだる嘉平《かへい》の袴《はかま》。紫のふろしきにつつんだる弁
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