が。僕もずいぶん気の小さい方で。少しくだらんことが気になると。いてもたってもいられないようだったが。斎藤が無理やりに母に進めて。あの服部の浪子を妻《さい》にしてから。うちへかえってもかんがえるようなことはないのさ。何か読書でもしていて気の尽きる時には。琴を弾《ひ》かせたり茶を入れさせたり。少しは文学の相談もしたり。よほど気の晴れることがある。君なんぞは御養母《おっかさん》もああいう風だし。気のむすぼれるももっともです。干渉するようだが僕がせわをしようから。レディ篠原をこしらえ給えナ。
篠「実にあの浜子の一件の時分は激して。あれに優《まさ》る妻をとも思ったが。今ではただ気のどくだ不便《ふびん》だということばかり脳にあって。ちっともそんなことはかんがえん。アーなんだか咄しが理に落ちたじゃアないか。
男「ムーン。サア行こう。ヤアヤアなんだか書きちらかしてある。発句かネ。
 紅葉みにくる人もみな赤い顔。
 アハハハハ。くだらないことを。こういうところには和歌はまれだネ。
篠「まち給えヨ。あすこにおちているが和歌かしらん。おや鉛筆でもきれいにかいてあるヨ。
 いたずらに散りやはつらん紅葉《もみじ
前へ 次へ
全69ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三宅 花圃 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング