いのこえを聞き。錠口をあけて。
下女「どちらから。
女「あの山中から出ましてござりますが。やどが長々お世話になりましてありがとうござります。今朝私しも帰りまして。宅も明けましてござりますから。すぐに帰りますようおっしゃって。
下女「オヤ山中は手前でござりますが。今日はどなたもおいでにはなりません。
女「デハ篠原の嬢様のおうちではござりませんか。
下女「イエこちらでございます。
女「お嬢様におめにかかればわかりますでござりましょう。あの山中のさだでござりますが。ちょっとお目通りを願いとうござりますと。おとり次ぎを願います。
おさんはふしぎそうな顔をして。じろじろみながら奥へきたり。
下女「あの奥様。三十ばかりの待合茶屋のお神さんみたような人がまいりまして。ちょっとお目通りを願いたいと申します。
浜子は窓にうでをかけて。女学ざっしを読みいたりしが。
浜子「どんな人。
下女「あの通し小紋の羽おりを着て。大そういきな人で。何かいろいろ申しましたがわかりませんでした。
浜「せんに殿様のおせわになったおさださんじゃアないか。
下「なんでも貞とかなんとか申しました。
浜「アーあの人にちがいないよ
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