んじんの狂言で。マアチョトおまえに遠ざかって。
女「サアそこはわかっているヨ。いよいよおまえがその気なら。わたいも悪婆の本性をあらわして。音羽屋のお伝という一幕を出しもしようが。おまえの気がきまらなくって。からを蹈んだ日には馬鹿を見るからネー。
男「うたぐりも人にこそよれだ。ヒーヒーたもれに人ヲつけ。
女「あぶないもんだ。そうはいうものの。むこうは面がいいのにおまえさんが面喰いだから。
男「馬鹿な。
女「ソンナラ大丈夫かえ。
男「当りまえよ。耳をかしな」と声をひそめて。両人がしばしささやきいたりけり。これ新橋ステイションの側《かたわら》なる。新橋楼《しんきょうろう》という待合の奥二階に。さしむかいの男女は。山中正にお貞なり。正は時計を出して見て。もう刻限だぜドレ。と立ち出でながら。
正「今度の湯治は大丈夫か。男の連れがあるのじゃアないか。
貞「お前じゃアあるまいし。何の因果で浮気なんぞをするものかネ。疑ぐるなら汽車に乗るところまでついてくるがいい。お清のほかにゃア牡猫《おねこ》だッていやアしない。
と戯《たわぶ》れながらステイションに近づけば。発車のしらせチリリンチリリン。
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